another ocean #5

2012.10.15 20:21|☆another ocean 【完】
another ocean

Siwon side

小さな呻き声が聞こえ、シウォンは体を起こした。
明かり一つ灯っていない暗がりの中で、時計に眼を走らせる。
まだ太陽はその姿を消しては居ないはずだ。
夜の帳が完全に下りるまで・・・我々の時間になるまであと4時間は必要だろう。
夏の夜は短すぎるとシウォンは思う。

また隣室からくぐもった声と、衣擦れの音が聞こえた。

小さく息を一つ吐いて、隣室へと向う。小さくノックをし、返事を待たずに同い年の兄の部屋の中へと進入した。

「・・・入んなよ。」

ベッドの上でうつ伏せになって、両手でシーツを掴んでいる苦しそうなヒョクチェの姿が目に入った。
シウォンを睨みつける眼光は鋭く、炎のように赤く光っていた。

「・・・ウニョガ、今日は一緒に行こう。乾いて辛いんだろう?」
「・・・必要ない。」

そう言うと震える手で、サイドテーブルに載っている深紅の液体が入ったボトルに手を伸ばし、上半身を起こすとその中身を喉に流し込んだ。

「・・・あれだけ光を浴びたんだ。それじゃ収まらない。」
「だまれ・・・・っ・・・・くそっ!!」

シウォンの指摘は的を得ていたようで、ヒョクチェの渇きは収まる気配を見せず、その情動に抗うかのようにベッドの上をのた打ち回るのだった。
右手で胸元のペンダントを、もう片方の手でシーツを握り締め、乱れた呼吸を押し殺すかのように枕に顔を埋めているヒョクチェをただ見守るしかないシウォンは、自分達が何をしたのだというのだと・・・毎回泣きそうになりながら思うのだった。

許されるなら・・・祈っても良かった。
・・・それで兄ヒョクチェの苦痛が取れるのなら。

どんな生き物であれ、命を搾取して生きているのには変わりは無いだろう。
ただ、自分達のエサが・・・人なだけだ。
罪悪感を感じない訳ではない。
シウォンは『殺さない』ように食事の量を制限していた。
その分、回数を増やさなくてはならないが、一度牙をつけると、二度目からは自ら招き入れてくれるようになり・・・食事は容易になる。
美しいものを自ら手折るようなことはしたくなかった。
どんな罪があって、このような生き物に生まれたのかと・・・なぜこうまでして生きていかなければいけないのかと。
ただ、生まれてきたからには・・・何がしかの意味があると思いたかった。


ヒョクチェは・・・あれ以来一度も食事に行くことはなかった。
初めてで最後になってしまったヒョクチェの食事。
『誰にも見られるな、溺れるな。殺すなよ、後が厄介だ。』長兄イトゥクから時には自慢話のように、時にはロマンス小説のように聞いていた話の中に織り交ぜられた忠告は、肝心な時にヒョクチェの意識から抜け落ちたようだった。牙が柔らかい皮膚を貫く感覚に・・・流れこんでくる甘く芳しい血の香りに・・・そして、腕の中で冷たく、固くなった人の重みが今も優しすぎるヒョクチェを苛む。



真っ青な顔で帰宅したヒョクチェの『ヒョン・・・俺、殺っちゃった。』という声に、大丈夫だと言い残してトゥギヒョンが飛び出していくと、ヒョクチェは頭を抱えてソファーに座った。

「・・・ウニョガ?」
「・・・シウォナ・・・ドンヘが好きって言ったの、どんな子って言ってたか覚えてるか?」
「・・・大きな二重で、左目の下に泣きボクロの可愛い子。ウニョガが『泣き虫だから泣きボクロの子がいいのか』ってからかったんじゃないか。」
「・・・その子かも。俺、殺したのその子かも。」

ヒョクチェの告白に言葉を発することが出来なかった。
ただ、幸せそうに『好きな子がいるんだ、あの子はまだ俺のこと知らないけど・・・今度見に行こう、遠くからでも幸せになれる笑顔だから。あっでも惚れるなよ』って照れたように笑うドンヘの顔が浮かんでは消えていった。
目の前でうな垂れて小さく振るえ、泣き出したいであろうヒョクチェの肩をいつもの様に抱いて慰めることも出来ず、かといってヒョクチェがした行為を自分がしてしまう可能性の大きさに慄き、罵倒することも出来なかった。
ただ、違ってくれればいい。
その子じゃなければいい・・・そう願っていた。
その願いは、数日後に会ったドンヘの泣きはらした眼で・・・叶わなかったと知ることになったのだった。



ヒョクチェの一向に収まらない呻き声に、シウォンはベッドサイドに足を運びそのベッドに腰を下ろし、サイドテーブルに乗ったバラの濃縮液のボトルを手にとり、そのまま口を付ける。
濃厚なバラの香りが口腔内に広がり、ドロッとした独特の粘液の感触が喉を伝い落ちる。
・・・これでも命は繋ぎとめられるが・・・。

「ウニョガ、もう忘れよう・・・もう、見てられない。ちゃんと食べよう。俺のヒョンだろ?」
「・・・イヤダ。」
「ヒョン!」
「・・・もう、この牙を突き立てることはしない。死んでも。」

枕に伏せてた顔を少しずらし、片方の目だけでシウォンを捉えると切れ長の赤い目が、強い光を投げかける。
死んでもなんて・・・簡単に言うなと怒りがこみ上げる。
ドンヘがおかしくなったのは・・・あんなにも自暴自棄になってきたのは・・・あれからヒョクチェのドンヘへの態度が変わったからだとシウォンは思っていた。
きっと明確には理解してないものの、感情に敏感なあの男が、気付かないわけが無い。まして、自分が大切に思っている相手が・・・自分をどう思っているか。
それこそ全身をアンテナにしてキャッチしているに決まっている。
なんでもドンヘの要求を呑むことで謝罪しているつもりだろうが、それがドンヘを苦しめていることに気付いてないのはヒョクチェだけだ。

・・・どれだけ自分が大切にしようと、ドンヘを傷つけるのも救えるのもヒョクチェだけなのだろうということに無性に腹が立った。

死なせるものか・・・死なせてたまるか。

「・・・なら、食べさせるまでだ。絶対に死なせない。」

驚いて顔を上げたヒョクチェを眼光鋭く捕らえ、その全身を拘束する。
ヒョクチェの体を返し、仰向けにするとその体に乗り上げ四つ這いになったシウォンを、冷たく鋭い眼差しが捕らえる。
その眼差しで、シウォンは呼吸も侭ならないくらいに囚われるはずなのだが、本来の食事を拒否しているヒョクチェが、体格も体力も敵わないシウォンを捕らえられるはずがなかった。
シウォンは自らの牙で口の中を噛み切ると、口腔内に血が溜まるのを待って、ヒョクチェと唇をあわし、顎を掴んだ手と舌とで口をこじ開けると、生暖かいそれを注ぎ込む。
鋭い眼光が一連の行為を拒否していたが、一向に構わなかった。
その眼差しとは裏腹に、ヒョクチェの喉が嚥下し始め、失われる血液を送り出す為に速いテンポで脈打ちだしたシウォンの脈の音と、それを飲み下す音が静かな室内に響いた。
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Comment

私、この回大好きです!
ヒョクチェさんが苦しんでると、萌えてしまいます。
それを支えるシウォンさんとの絡み、最高です!
全然タイムリーじゃないコメントをお許しください(-_-)

私も好きです。

この話のヒョっくんは結構・・・蜜の味でしょ?病みつきです。
> 全然タイムリーじゃないコメントをお許しください(-_-)
いえいえ、すごく嬉しいのです。
長いお話付き合ってくださってありがとうです。
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FF、SJ中心で・・・BL取り扱いです。

CPはイェウクを中心に・・・83はもちろん、2woon ウンシヘ マンネラインまでほぼ全てに萌える○態です。
まぁ"みんな違って みんないい”ってことで。

*作者の脳内でのお話ですので、当然事実と異なります。事実も都合のいいように解釈し捻じ曲げ、誇張します。苦手な方、取り扱い注意です。

紙媒体化はじめました。(カテゴリ『はじめに』・・・より『本棚』へどうぞ)

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