another ocean #6

2012.10.15 20:27|☆another ocean 【完】
another ocean
RyeoWook side

「ドンヘ!!・・・リョギ、離れてろ。」

バンッと勢い良くドアが開く音と共に長兄ヒチョルが目の前に立っていて、凄い形相で兄ドンヘを睨んでいた。
色素の薄い茶色い髪に、大きな二重の目。真っ直ぐに伸びた鼻筋。
リョウクと同じように碧色に光る眼の奥に、時々赤い光が見え隠れする。

「っくそ!!鼻がもげそうな匂いをぷんぷんさせやがって!!」
「ヒョン。」

そういって、今にもドンヘに飛びかかりそうなヒチョルの腕を慌てて掴む。
もっとも、いくら兄が女性的な顔立ちをしてようと、本気の兄さんを止めることなど到底出来ないのだが・・・。

「・・・ヒョン、落ち着いて。」
「落ち着けるか!・・・大丈夫か?苦しくないか?」

そう言ってリョウクの顔を覗き込んだヒチョルの眼が、いつもの明るいブラウンアイに戻っていて、リョウクは気付かれないように、そっと安堵のため息を洩らす。
兄さんの気性はジェットコースターのようだと思う。
それに、殊更自分の事となるとその針が大きく振り切れることをリョウクは有難くも、心苦しく思っていた。

「平気。ドンヘ兄さん、すぐに流してくれたから。」

大丈夫だよ、何も問題ないと言う様にニッコリと笑って、ヒチョルを安心させるよう勤める。
ヒチョルは深く息を吐いて、目線を左右に漂わせ逡巡した後、自分の後ろにいるドンへに視線を戻し、『来い』と低い声で短く言い放つと、部屋を足早に出て行った。
衣擦れの音に振り返ると、ばつが悪そうな顔をしたドンヘがノロノロとリョウクのベッドから降りて、ヒチョルが待っているであろうリビングへ行こうとしていた。

「・・・僕も。」

そういいかけて、左右に振られるドンヘの頭に言葉を噤む。

「只でさえかっこ悪い兄貴なのに、弟についてきてもらうなんてマジアウトだろ。」

肩に置かれたドンヘの手が、ありがとうとでも言うようにリョウクの肩をポンっと押した。
そのまま立ち去る兄の背中を追うと、何時からそこにいたのか、部屋の入り口でドア枠に凭れ、あきれた表情の次兄ジョンウンが立っていた。

ドンヘと同じく黒く艶やかな髪に黒い瞳、涼しげな目は、長兄ヒチョルとは違った意味で目力があった。
ドンヘはその前まで来ると肩をすくめておどけて見せ、その脇を通り過ぎていく。

身じろぎもせず、立ったままこちらを見ているジョンウンの視線に居心地が悪くなり、リョウクは思い出したようにピアノの方へと足を向ける。
ほんの5メートル程度の移動なのに、一挙手一投足を見つめられているようで、どうやって歩いたらいいものか分らなかった。
油断をすると右手と右足を一緒に出しかねない。
なぜこの兄を前にそれほど緊張しなければいけないのか、何もかも見透かされてしまうような目なのか、それとも・・・。
この感情を理論的に処理しようとして上手くいった試しがなく、早々にこの問題を放り出す自分にリョウクは毎度ながら呆れるのだった。
やっとたどり着いたピアノの前に座り、鍵盤の蓋を開け、撫でるように鍵盤に指を滑らせる。
リョウクが触れると、まるで待ち焦がれていたとでも言うように、答えて歌ってくれるのだった。
階下の兄の怒りを和らげるよう、もう一人の兄の・・・心の闇を溶かすように、リョウクはピアノと一体となって音を奏でる。
自分が兄達にして上げられることはそう多く無く、ピアノは唯一誇れることだった。
ピアノの音色に、ジョンウンの声が重なる。メロディーの無いところに、歌詞もなくただ音を重ねただけのハーモニー。
ジョンウンの声が重なるだけで、空間が別の色に変わる。

イェソン(芸声)を別名に持つ兄。

ドンヘが持ち込んだざらついた空気が滑らかに変わり、キラキラと輝きだした。
その気持ちよさに思わず眼を閉じる・・・母の面影を探すように。

リョウクには、母の記憶はない。
懐かしく感じる歌も声も、きっとまだ幼いイェソンがうんと小さな自分の為に歌ってくれたであろう記憶であるというのが真実だろう。
そう頭で分っていても・・・リョウクにはそれが母のイメージに重なってしょうがなかった。

リョウクの指が止まって演奏が途絶えても、イェソンは歌ってくれた。
名前のない歌を。
歌詞もメロディーもなにも無い、音そのものを、リョウクが懐かしさを感じている母の面影を。

イェソンの声が止んで、リョウクは演奏を止めてしまっていたことに気がついた。
「・・・あっ・・・ゴメン。」
あわてて鍵盤の上の手を動かそうとして、いつの間にか隣に腰掛けていたイェソンに手を握られる。
驚いて顔を見ると見えてないんじゃなかろうかというぐらい目を細め、ふにゃっと笑った顔のイェソンが居た。
不意に見せられた笑顔に胸が跳ねるのを悟られまいと感情を押し殺した声で「何?」とイェソンに問いかけた。

「いや。・・・小さい頃から変わらないな。ポカンとした顔してた。」

よっぽど酷い顔をしていたのだろうか・・・そんな事を考えているリョウクをお構いなしに、イェソンはリョウクの指を掴み、その指で鍵盤をポーンと鳴らす。

「リョウクの指は魔法の指だな。・・・しかし、俺より大きな手っていうのが気に食わん。」

そんな訳の分らないことを・・・。本気でむくれている兄を半ば呆れて見つめるが、その視線には気付かないらしい。

「ドンヘもしょうがない奴だ。」

・・・ヒチョル兄さんがジェットコースターなら、この兄はモグラたたきだとリョウクは思う。
何処に出てくるか分らない。話題があちこちに・・・脈絡無く飛び出してくる。

「僕の代わりに外に出るんだよ。ねぇ・・・下、大丈夫かな?」
「大丈夫だろう。・・・ヒョンも分っているさ。ただなぁ、匂いがヒョンの気持ちを逆なでにするんだろうな。まぁ、ドンヘも度が過ぎたっていう自覚があればいいんだけどな。」

そういって今度は自分の指で鍵盤を押し、リョウクみたいな音は出ないなと呟いた。
ピアノという打楽器の一種で一音押しただけで音色が違うとか分るのかと聞くと、当然と真顔で言う。

「同じ音を鳴らしても、全然違う。俺のは押しただけ。嫌とは言わないけど、ちゃんと音だしてくれるけどな。リョウクが触るとピアノが歌うんだ。柔らかく、優しい声で。リョウクそっくりの音だよ。」

終いにはお前もそうとうリョウクが好きだなといって、ピアノを撫で始めた。ふざけているのかともおもったが・・・真顔なのだから、この兄は至って真面目に話しているんだろう。

不思議な人だと思っていたが・・・物とまで会話ができるのか?
確かに・・・ピアノは好きだけれども、世の中には、物に名前をつけて大事にする人も居るらしいけれども・・・自分は擬人化したりしないとリョウクは思う。

不意に顔を上げた兄の視線の先を追ったが、特に気になるものは無く・・・なんだろうと思っていると立ち上がった。

「・・・下、行って来るわ。・・・まだ、窓開けるなよ。完全に夜になるまで。」

先ほどまでと違い、打って変わってリョウクに寄越した眼差しは兄らしい眼で・・・素直に頷くと、イェソンはそれでいいとでも言うように片方の口角を上げて笑って見せ、部屋を出た。


その瞬間、階下でグラスの割れる大きな音が響いた。
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FF、SJ中心で・・・BL取り扱いです。

CPはイェウクを中心に・・・83はもちろん、2woon ウンシヘ マンネラインまでほぼ全てに萌える○態です。
まぁ"みんな違って みんないい”ってことで。

*作者の脳内でのお話ですので、当然事実と異なります。事実も都合のいいように解釈し捻じ曲げ、誇張します。苦手な方、取り扱い注意です。

紙媒体化はじめました。(カテゴリ『はじめに』・・・より『本棚』へどうぞ)

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