another ocean #7

2012.10.15 20:34|☆another ocean 【完】
another ocean

HeeChul side

ヒチョルの手から離れたグラスは、ドンヘの顔を掠めて壁に当たり、粉々に砕け散った。
壁に出来た赤黒い大きな染みが・・・まるで血を流すかのようにひろがる。
ソファーに深く身を沈めると、目の前で顔の色を失い固まっているドンヘを見る。

こいつは・・・バカなのか。・・・こんなにバカだったか。
死にたいのか?・・・ヒョクを殺したいのか?
この炎天下、プールに行っただと?しかも、ご丁寧に首からクロスをぶら下げて?!お前は何も感じないのか?!
・・・ったく。

同じ兄弟でありながら、羨ましい体質だとヒチョルは心底思う。

いつの間にか階下に下りてきていたイェソンが、グラスの破片に手をかざし歌うと粉々のそれは元の形へと戻った。
テーブルの上に置いてあるローズの抽出液をグラスに注ぎ、ヒチョルの前に置いて、自身は壁の染みを消し始めた。
グラスの中の液体を口に含むと、口腔内にドロッとした感触とローズの香りが広がる。
ため息を大きく一つつくと、ドンヘの体がビクッと跳ねた。

皮肉なものだなとヒチョルは思う。
どうみたってドラキュラにみえない自分やリョウクが、日の光の匂いや、血の匂いに体が跳ねるほど反応するというのに、黒い髪、黒い瞳・・・赤く光る眼のあいつ等寄りの容姿をしているドンヘやイェソンは・・・体質的にはその特徴を継いでいなかった。ドンへはごく稀に捕食欲が沸くようだが、薄めたローズウォーターで誤魔化せるほど軽度なものだったし、イェソンに至ってはその香りですら必要なさそうだった。

「飲め。」

そういってグラスをドンヘに向けると、眉をよせて拒絶する。

「ヒョン、知ってるだろう?それ飲むと酷いんだ。」

確かに、ドンヘにこれは濃すぎるだろう。
ヒチョルに付き合って何度か飲んだ翌日には酷い頭痛がするらしく、丸一日をベッドで過すことになってしまうようだったが・・・ドンへ自身、自覚がないのか?眼で見て分るほどドンヘの様相が変わっているのに?そんなにも乾いて、眼が怖ろしいほど赤く輝いているのに?

「そんな顔で言っても説得力がないな。あいつ等みたいになってるぞ。」

そういうとハッとしたように自らの口元に慌てて手をやる。
異様に伸びた犬歯に触れ、小さく頭を振ると観念したようにヒチョルの手からグラスを受け取り、舐めるように口に含んだ。

「・・・お前ですらそうなんだ、ヒョクたちの乾きようは見ものだな。」

そう言うと驚いて目を剥き、見る見る泣きそうな表情に変わった。
ヒョクチェ達を心配しているのだろう、視線が落ち着き無く動き、今にも飛び出さんとしているドンヘを眼で制す。

「今夜は出るな。・・・いくらバカな弟でも、殺されると分ってて外に出してやるほど、俺は薄情じゃない。」

ドンヘを見つめながら、暗示をかけるように宣言した。
正気を失ったあいつらに、あいつらの活動時間帯に、本気になったあいつ等に俺らは敵うはずがなかった。それに、最近のエスカレートしていく奇行からすると、ドンヘは指一本抵抗しないように思われた。
話を聞いていたであろうイェソンが、短いフレーズの歌を口ずさむ。
キンと一瞬耳鳴りがして、すぐにそれは掻き消えた。
俺のテリトリーの中で・・・イェソンが幾重にもガードしているこの家から、出られると思ったら大間違いだ。


「ヒョン、もういいだろ?」

うな垂れるドンヘを気の毒に思ったのか、イェソンが間に入ってきた。
ドンヘの横に座りその手にあるグラスを奪うと、ドンヘを早く行けとばかりにシッシッと手を振って追い立てる。

「おい。」
「俺が付き合うから。ね?」

そういってグラスの中身を一気に煽る。たいして飲めもしないくせに・・・お前は本当に甘いな。
イェソンの不器用な幕引きに付き合ってやろうと決め、ドンヘにもう一つグラスを取るように言い、受け取ったグラスと空になったイェソンのグラスに、ボルドー色の液体を注ぎこんだ。

それを了承と取ったイェソンはドンヘに、「行け」と短く言う。
すごすごと撤退するドンヘを眼の端で出て行くのを見送る。ドアの閉まる音がした後、目の前の男をみると、こちらを見てフッと微笑んでいて、思わず悪態をつく。

「バカが。」
「俺が?」
「甘すぎるんだよ、お前は。お前が甘やかすからああなったんだろ。」
「・・・ごめん。」

独特の擦れたような声で、本当に申し訳なさそうに呟やいた。

「・・・うそだよ。真に受けるな。8つや7つで育てられた事の方が奇跡だ。」

両親が・・・消えたとき、ドンヘは5つ、リョウクに至ってはまだ3つだったのだ。

「あいつらが、何も覚えてないのがせめてもの救いだな。」
そう言うとイェソンは「幸せな記憶も無いのが不憫だよ。」といってグラスを傾けその中身を空にする。

有り得ない飲みっぷりに大丈夫なのかと心配になるが、こっちの心配を余所にボトルを掴むと自ら注ぎ入れる。
その怖いぐらいの赤い色に、・・・思わず自分の両手を見つめていた。

深紅に染まった手・・・。それを拭うようにズボンの膝にこすりつける、何度も・・・。

「ヒョン。」

イェソンの声に我に返る。
手とズボンを見たが、さっきまであった強烈な赤い色は消えていた。

「・・・ヒョン、独り背負わせてごめん。一緒に背負えなくてごめん。せめて守るから。みんな守ってみせるから。」

すでに回っているらしく、眼がうつろになっている。
もうよせば良いのに、まだ付き合ってくれる気なのか、それとも何か勢いがないと言えない事でもあるのか・・・.
イェソンは掴んだグラスの中身を一気に飲み干し、「ちょっとゴメン」と言うと、ソファーに手足を投げ出すように寝転び、額に手を当てて横になった。

「・・・もう大人だ。その必要はないさ。」
「それでも、守るよ。大切な・・・弟を。リョウク・・・ドンヘ。・・・ヒョンも。」

父方の能力にしろ、母方の能力にしろ、学ぶべき親や親族がない俺らには手探りで、自分自身の能力の全貌すら把握できず、ましてや弟達の能力など分るわけが無く、在り様に悩む弟達にどうしてあげれば良いのか分らなかった。
自分や弟達と違い、小さな頃から突出した母方の能力の片鱗を見せたイェソンには、母に施された教育が根付いていた。ほんの小さな簡単な術ではあるけれど、それがイェソンを支えていた。

「俺もか?」
「うん。・・・それとも、トゥギヒョンに守ってもらった方がいい?」
「それだけは勘弁。」そういうと笑った後、
「俺、行くよ。」と言ったのだった。


それは最近になって、絶縁状態だった母方の祖母からの手紙への返答なのだと・・・決心がついたという事だった。
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FF、SJ中心で・・・BL取り扱いです。

CPはイェウクを中心に・・・83はもちろん、2woon ウンシヘ マンネラインまでほぼ全てに萌える○態です。
まぁ"みんな違って みんないい”ってことで。

*作者の脳内でのお話ですので、当然事実と異なります。事実も都合のいいように解釈し捻じ曲げ、誇張します。苦手な方、取り扱い注意です。

紙媒体化はじめました。(カテゴリ『はじめに』・・・より『本棚』へどうぞ)

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