another ocean #9

2012.10.19 00:00|☆another ocean 【完】
another ocean

KangIn side

泊まっていけと言っていたのに、レポートやっつけられなかったから帰ると言ったソンミンを見送りに出た俺は、予想以上に酔っ払った様子の、手でパタパタと顔を仰いでふぅと頬を膨らませ息を吐いている弟の横を無言で歩く。
本当はもっと時間をかけて話すべきかも知れない。
ただそのどれもが気恥ずかしく、一体何から話せばいいのか・・・口にするのを躊躇われた。

「ソンミナ・・・。」

そう呼ぶと、今夜は月出てないんだ、新月なんだねと空を見上げて呟いた。
カンインも同じように見上げる。
いつもより星が沢山瞬いているように見えた。
コンビニの前で足を止め、くるりとこちらを振り返った。

「ヒョン、もういいよ?さっきメールしたら帰るとこって返信きたから、ここで待ってるってドンヒに連絡したし。」

黙り込んだカンインの顔を覗き込むように、丸い目がこっちを見ていた。
コンビニの前のガードレールに腰掛ける。

「アンリ、いい子だよね・・・あ、ヌナに美味しかったってもう一度言っといてよ。すごく楽しかったって。」

ニッコリ笑いながら今日のことを話すソンミンがおかしくて、つられて笑顔になる。

「あぁ。」
「・・・仕事は・・・やっぱり話せないよね。」

ソンミンも並んでガードレールに腰をかけた。
短いため息をついて、上を向いて独り言のように呟いた。

「・・・あぁ。・・・心配するな。暫くはソウルに居られるさ。」
「本当?あぁ、良かった。じゃあ、安心だね。・・・ヌナを幸せにできるね。」

そういって微笑むから思わずその肩に手を回す。記憶の中の少年とは違って随分と逞しくなっていた。

「・・・ソンミナ、俺が居ないとき・・・何かあったら二人を宜しくな?」

そういうと驚いて顔を上げ、俺の本意を探ろうとじっと顔を覗き込む。

「なにそれ。どういう意味で言ってるの?」

ソンミンの顔が強張る。
射る様な眼で俺を見上げた。

「言葉通り。」
「・・・代打は勤めるけど。・・・兄さんの家族なんだから、兄さんが守りなよ?それに、僕にも大事な人が出来たら、僕はそっち守らなきゃいけないしね。」

茶化しているが、本音は俺を心配しているのだろう。
家族が心配なら簡単に居なくなる様な事になるなと。

「・・・いつになるんだか。」
「言ったな!」

軽くボディにジャブを入れてくるソンミンをガードする。

「ははは。じゃぁ、またな?次の週末も来いよ。ミナもアンリも喜ぶし。」
「うん。なるべく邪魔にならない程度にお邪魔するよ。」

連絡すると言ってソンミンに背を向けて歩き出す。
途中一度振り返ると、ガードレールに座って携帯を弄るソンミンの姿が、コンビニの明かりに照らされて白く浮かび上がる。

「ミン!」

叫んで手を振ると、不思議そう首をかしげながら片手を高く上げた。



戻って来た部屋の前で、妙な違和感が胸の中に湧き上がる。

なんだ?・・・何が違う?
ザワザワと嫌な感じしかしない。

カンインは自分の不快感の原因を探ろうと、自分自身の感覚に神経を研ぎ澄ます。
この感覚、一度味わったことがあるような・・・。
そういえば・・・あれは軍隊での訓練中だったっけ?実弾での訓練中、そのポイントに居るのが無性に嫌だったことがある。
その気持ち悪さから逃れるようにその場を後にした5分後、その地点に誤射による着弾があった・・・その事を思い出して背筋に悪寒が走る。

今、何でここなんだ?
ミナとアンリが居る部屋、暖かい場所のはずなのに。

常時携行している銃にそっと手を伸ばして・・・ドアノブに手をかけ、音を立てずに部屋の中へと入る。
ソンミンを見送りに部屋を出てから1時間も経っていないのに、暖かだった部屋の雰囲気は死んだようだった。

死んだよう?・・・だれが?
・・・嫌、ものの例えだ。

息を殺して銃を構え、部屋を見渡す。
ミナがいるのに、生活音がしない。
アンリがいるのに・・・静か過ぎる。

スタンバイ状態のコンポの明かりを見て、部屋の電気が消えていることに気がつく。
頭の中でけたたましく警告音が鳴り響いているが、それを無視し二人の名前を叫びたい衝動に堪える。

ミナ・・・ミナ!アンリ!!

部屋の奥へ歩を進めると、何かが足先に触った。
銃を構えたまま、窓の外から差し込む外灯の微かな明かりを頼りに足に触ったものを見る。
それは・・・アンリのように見えた。
その固まりに・・・アンリの首にそっと手を伸ばし触れたが脈は無く、そしてとても冷たかった。
カンインには、人間の体がどうしたら1時間でこんなにも冷たくなれるのか分らなかった。
まるで何日も冷凍庫に入れていたかの様に、氷の彫刻の様に・・・ただの冷たい物になってしまっていた。
さっきまで笑っていた・・・頬をばら色に染めて、ソンミンにオッパと甘えていた大事な妹の顔にそっと手を伸ばし、驚いたように見開いたままの瞼を閉じる。

ミナ・・・ミナは?!

微かに空気が流れるのを感じ、寝室へと足を向ける。
僅かに空いたドアの隙間から中を伺い見る・・・その光景に声を上げそうになり、辛うじて踏みとどまった。
ひとつに重なった人影・・・女を抱き寄せ、その首筋に顔を埋める長身の男・・・。
体中の血液が逆流し沸騰する。頭の中で鳴り響く警告音はもはやカンインの耳には届かなかった。
男の腕を掴んでいた・・・ミナの手がダランと力なく下がったと同時に膝から崩れ落ち、ドサッと鈍い音を立てる。

何が起こったかなんてどうでもいい。
コイツが誰かも・・・何かも、なんでここに居るのかも。
たった1時間・・・家に居なかった、それだけのはずだった。
ソンミンを見送りに行っただけ。
今日のような食事が、これから毎日、何年も続くはずだった。
ソンミンが彼女を連れて来て・・・そのうちアンリを嫁に出して、ミナとの間に可愛い子どもを授かるはずだった。何十年もあの笑顔を抱きしめるはずだった。
暗闇の中、ゆっくりと振り返った男は透ける様な白い肌と、妙に赤い口元、そして赤く光る眼をしていた。

その目と視線がぶつかった瞬間、カンインはトリガーを引いた。

乾いた発砲音と同時に目の前が赤く染まり・・・やがて、ゆっくりとモノクロに変わった。


視界が傾く・・・闇が優しくカンインを包み込んだ。
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FF、SJ中心で・・・BL取り扱いです。

CPはイェウクを中心に・・・83はもちろん、2woon ウンシヘ マンネラインまでほぼ全てに萌える○態です。
まぁ"みんな違って みんないい”ってことで。

*作者の脳内でのお話ですので、当然事実と異なります。事実も都合のいいように解釈し捻じ曲げ、誇張します。苦手な方、取り扱い注意です。

紙媒体化はじめました。(カテゴリ『はじめに』・・・より『本棚』へどうぞ)

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