another ocean #10

2012.10.20 00:00|☆another ocean 【完】
another ocean

YeSung side

空気の色が変わった。
そう思っていると、兄もそれを感じたのか軽く上体を起こしている。

「ジョンウン。」

普段は通称のイェソンと自分を呼ぶヒチョルにたまに名前を呼ばれると、イェソンは背中に電気が走るように感じる。
言霊というのはあるのだろう。

「キュヒョンです。」

ヒチョルが欲しいだろう、この空気の色が変わった解を述べる。

「キュヒョン?トゥギの弟の?・・・あいつ来てるのか?いつから?覚えているのか?」

夜出歩くヒチョルは、キュヒョンがリョウクを訊ねて遊びに来ていたことを知らない。

「そう、マンネのキュヒョンです。一年ぐらい前かな?小さい頃のことは覚えてないみたい。ここにきたのは偶然だろうけど、ドンヘのつながりもあるし、驚くことじゃないよ。何よりリョウクが楽しそうで。」

リョウクにだって、友達は必要だ。
それに・・・キュヒョンなら、トゥギヒョンの弟なら安心だ。
いいよね?と兄の顔をみると、鼻をおさえて顔をしかめていた。

「ジョンウン、酔いすぎでこの臭いに気付かないのか?・・・3、いや4人の血の臭いがする。」

上体を起こして鼻をすする。
3人・・・キュヒョンの臭い?そこにドンヘの血の臭いが混ざる。
ケガ?キュヒョンが傷を負っているのか?いや、それよりも・・・この臭いと、流れる血にリョウクは・・・慌てて立ち上がり、二階へと急ぐ。
近づくごとにその臭いが強くなり、粘着質な空気が体を包む。
キュヒョン自身の出血が止まったからか、痺れるように甘い臭いが濃くなり辺りに漂う。
両開きのドアをひと睨みすると手を触れることなく、バァンと弾ける様な音と共にドアが開き、その臭いの元へと滑り込んだ。

「ヒョン!!」

何を思ったのか、ドンヘは庇うようにキュヒョンを背中に隠して、イェソンに立ちはだかる。

十数年分、時計の針が巻き戻されたように感じる。
思えば、あの時もこんなシュチュエーションだったはずだ・・・キュヒョンとリョウクを背中に庇ったのは、ドンヘではなく自分だったけれど。
ドンヘの後ろでは、かるくウェーブのかかった柔らかい黒髪の驚いたように黒い瞳を丸くした、幼い頃の面影を十分に留めたキュヒョンが居た。

毎晩気配は感じてたものの、イェソンはキュヒョンに会うことはしなかった。
リョウクの唯一の外の世界を邪魔したくなかった。
外に出ることの無いリョウクは・・・家の中での出来ことが全ての世界に住んでいるリョウクにとって、兄に秘密を持つことなど、到底適わないことだった。
そんなリョウクにとって、キュヒョンのことは唯一の秘密事項だった。
兄の知らない世界、自分の世界を持って、楽しそうにしている弟をがっかりさせたくはなかった。

「キュヒョンか?」

いつの間にかイェソンの後ろにいたヒチョルが問いかける。
ヒチョルの登場でドンヘは益々体を固くした。

「ヒョン、これは・・・キュヒョンは・・・。」
「話は後だ。ドンヘ、キュヒョンの臭いを流して来い。」

ドンヘはうんと返事をして、キュヒョンの腕を引き立ち上がらせる。
動くと空気の揺れで血の臭いが立ち上がった。

「・・・っ。」

自らを抱くように両腕を組んで、少し前かがみになり小さく震えるリョウクの顔を、大丈夫かと覗き込む。
辛そうに細められた瞳は、いつもの明るいブラウンアイではなく、エメラルド色に光っていた。


綺麗だ。


海の中から空を見上げたら、きっとこんな風に輝くのだろうと思わせる色だった。
そういえば・・・母の瞳もこんな色だった。
いつもキラキラ輝いていた。・・・最後の時まで。


「イェソン!!」

余計なことを考えていたせいで反応が遅れた。
風を感じた瞬間、体が浮いて入り口近くまで飛び壁に叩きつけられて、グッっと気管から音が漏れる。
痛みに思わず瞑った目を開けると、目の前にリョウクがいた。

ビロードのような闇の中で、白磁のような白い肌が浮かび上がる。
先ほどまでと違って、うつろに開かれた瞳は何も映しておらず、ただ北の国の深い海のように、氷山の下の光の届かない海中のように冷たく碧色に光るのだった。

イェソンは呼吸すら忘れて、リョウクを見つめた。

・・・本当のリョウクはこんなに凄い力なのか。
そして、こんなにも妖しいまでに綺麗だったか?

キュヒョンから漂う濃厚な血の甘い臭いでリョウクのリミッターが外れたようだ。
止めに入ろうと、駆け寄ろうとするドンヘをヒチョルが制す。

リョウクが・・・あのリョウクが目覚めてしまえば、ドンヘは太刀打ちできない。
・・・ヒチョルですら。
リョウクの眼には怒りに駆られた時のヒチョルのように、碧の奥に赤黒いものが見え隠れする。
ヒチョルよりも・・・もしかすると純血であるキュヒョンや彼の兄達の誰よりも、リョウクは残忍で貪欲に血を欲しているのかもしれない。
そういう自分を、自分自身が何よりも恐れた結果・・・リョウクはそれを理性で、意志の力でねじ伏せてきた。
リョウクが家から出られないほど具合が悪くなるのも、その欲望が小さな体の中で暴走していたからなのか?
チェックメイト状態のこの状況で殺られないのは・・・僅かに残った理性が必死で抵抗しているからなのだろう。
微かにリョウクの体が震えている。

家中に張り巡らしていたシールドを半径1メートルに、縮めるようにイメージする。
中のものを守るというよりは、間違っても兄や弟達を巻きぞえにしないように。

リョウクを拘束することも自らを守ることもできるが、イェソンはそれらの唄を歌わなかった。

イェソンはそっと手を伸ばし、リョウクを抱きしめる。


こんな体で・・・こんなにもやせっぽっちなのに、お前は戦っているんだな。
いいんだ。我慢しなくていい。


右手を頭に回し、すこし左に頭を傾けて、自分の首筋にリョウクの顔を埋めるようにあてがう。

「ジョンウン?!」
「ヒョン!!」

リョウクの向こうに兄と弟が驚いた顔でこちらを見ていて、微笑んで返す。

「リョウク、もういい・・・我慢しなくていい。俺ならいい。死なないから。な?」

躊躇うように震えたリョウクの両腕がゆっくりと腰に回ったかと思うと、その唇が首筋に触れる。
足元から腰にゾワゾワとしたえも言えない感覚が這い上がってきた刹那、首から背筋にかけて貫かれるような痛みが走る。


嚥下する音を聞きながら、リョウクの背中を子どもをあやすようにトントンとリズムをとって叩いた。


“ジョンウン、イメージして。
心の中で思い描きなさい。
唄は歌、ただのきっかけに過ぎない。
そこにどんな想いを乗せるかで変わるから。
心の強さが声を引き立てて、唄になり、
あなたは『イェソン』になる。”


次第に薄らいでいく意識の中で、記憶の奥底から母の声が蘇って消えた。
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FF、SJ中心で・・・BL取り扱いです。

CPはイェウクを中心に・・・83はもちろん、2woon ウンシヘ マンネラインまでほぼ全てに萌える○態です。
まぁ"みんな違って みんないい”ってことで。

*作者の脳内でのお話ですので、当然事実と異なります。事実も都合のいいように解釈し捻じ曲げ、誇張します。苦手な方、取り扱い注意です。

紙媒体化はじめました。(カテゴリ『はじめに』・・・より『本棚』へどうぞ)

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