another ocean #20

2012.10.30 01:01|☆another ocean 【完】
another ocean

SungMin side

『今月中に部屋空けてもらえますか。』

ヌナの名義の部屋ではあるけれど、その親族が捕まらないと知ると何処をどう辿ったのか大家が連絡を寄越してきた。
コンビニを通り過ぎ、緩やかなカーブの上り坂の先にあのアパートを見つけると、足取りが重くなる。

あの日、この場所で自分の名前を呼んで手を振った兄の姿を思い出し、胸がふさがる。

近くにあった自動販売機にコインを投入しミネラルウオーターを買った。
冷や汗をかいている手のひらをズボンに擦りつけ、キャップをあけて水を口に含んだ。

―――・・・大丈夫、今日こそ行ける。ちゃんと、整理してあげなきゃ。

迷惑そうに電話してきた大家の冷たい声を思い出し、ヌナやアンリが大事にしていたものだけでもこの部屋から持ち出そうと決心する。
そうでもなきゃ、好き勝手に処分された挙句、処理費用すら請求してきそうな勢いを電話口に感じていた。
毎日この行程を繰り返し、ようやく一週間かかってアパートの前にたどり着くことができた。

現場に居合わせたわけでもないのにPTSDだなんて笑える。

それほど事情聴取で見せられた現場写真は強烈だった。どんなに映像技術が進んでいようと、バーチャルはリアルには敵わない・・・特殊なメイクを施しそういった画を作り出す側の人間なのに、あの画は・・・吐き気がした。
脳裏にこびり付いて離れない画像を振り払うかのように頭を振り、再度水を口に運んで落ち着かせる。

足が重い・・・階段を上がる為に壁に手をついて息を整える。

「・・・大丈夫ですか?・・・ソンミン・・さん?」

振り向くと見たことのある顔があった。

「ええ・・・と、君・・・。」
「キュヒョンです。・・・前はこの先でお会いしました。」そういって坂の下を指差す。
「・・・あぁ。あの時はありがとう。」
「・・・今日もお送りする必要がありそうですね。」

そう言って片方の口角を上げて笑う。
意地悪そうな表情とは裏腹に声色はどことなく優しい。

「いや・・・今日はこっちに行きたいんだ。」そう言って階段の上を指した。

あれから毎日来てやっと階段の下まで来れたというのに・・・ここで引き返したくは無い。

「上・・・ですか。じゃ、ほら。」

そう言って手を差し出すから、何の気なしにその手を掴むとあっという間に担ぎ上げられる。

「えっ・・・ちょっ・・・!!」
「どの部屋ですか?」そういいながら、僕を担いで二階へと上がって行った。



「・・・ここですか・・・。」

キュヒョンは伝えた部屋の前で下ろすと、小さな消え入りそうな声で呟く。
この子も事件を報道で知っていたのかも知れない。
ポケットから鍵を取りだし、鍵穴に差し込む。
カチャっと金属の擦れる音がして、それを抜き取ると再びポケットにねじ込んだ。
ドアノブを掴む手が震える。

「・・・開けましょうか?」

キュヒョンの声に頭を振って答えると、大きく息を吸ってドアを開け放った。

部屋の中から澱んだ空気が立ち上り、こみ上げてくる吐き気を押さえつけ、部屋へ足を踏み入れた。
歩を進めるにつれ、強くなる嘔吐に耐え切れなくなり、台所のシンクに顔を伏せる。

後ろから腕が伸びて、シンク前の窓が開けられた。
涙に滲む視界の隅で、腕で鼻を覆ったキュヒョンが窓を開けたのだと理解する。

「・・・全部、開けてきます。」

そう言って部屋の奥へと消えた。

ズルズルとシンクに凭れしゃがみ込んでいると、キュヒョンが戻って来て、大丈夫ですか?と俺の顔を覗き込んだ。

・・・お前も相当顔色悪いし。

「ありがとう、大丈夫。血の匂いってすごいな・・・。」

そう呟くと小さく『・・・ですね。』と同意が帰ってくる。

「・・・もういいよ。こんなとこ・・・気持ち悪いだろ?帰りな?」

ペットボトルの水で口を濯ぎ、深く息を吐くと立ち上がって部屋を見回す。
大勢の鑑識が出入りしただろう・・・それでも、あの日のままだった。

足元にある、人型に型どられた白いテープ以外は。

部屋の中には華美なものなどひとつもない。質素な・・・慎ましやかな生活だと思う。
キッチンの食器棚にあったおそろいのマグカップを三つリュックに詰める。

「・・・どうするんですか?」
「連れて帰る・・・家族だから。」

そうキュヒョンに言って隣室へと向う。
アンリの部屋にはあの日付けていた可愛い髪留めが鏡台の上に放置されていた。
机の上には開いたままの教科書と辞書、その脇にはヒョンとヌナと三人で映った写真が飾ってあって、リュックを開けてその写真を写真たてごとしまう。

奥の部屋の入り口には・・・血溜まりの後が黒々と残っていた。

―――ヒョン・・・。

唇を噛締め、それを飛び越えて奥へと進む。

ヌナの寝室だったのだろう。
ベッドサイドにヒョンの写真と聖書の上に乗っかったヒョンのクロス・・・そして、その前に・・・小さな箱を見つけた。
震える手で、その箱を開く。

予想通り、小さなリングが光っていた。

「・・・あぁ・・・。」

こみ上げる嗚咽を我慢することなんて出来なかった。
家族が増えたと思ったその日に、守るべき姉と妹を・・・思い出を共有し、悲しみを分け合う相手が1人もいないなんて・・・一度に失うなんて・・・。

「・・・ヒョン・・・ヒョン・・・。」

部屋の入り口へと引き返し、黒い染みを撫でる。

早く・・・この長いシナリオから開放して欲しい。

何処かでカメラが回っていて、『カット!! お疲れー』と声をかけて欲しい。


背中を撫でてくれる手にも気付けないほど、床の上で丸まり涙が枯れるまで、声が掠れるまで泣いた。
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FF、SJ中心で・・・BL取り扱いです。

CPはイェウクを中心に・・・83はもちろん、2woon ウンシヘ マンネラインまでほぼ全てに萌える○態です。
まぁ"みんな違って みんないい”ってことで。

*作者の脳内でのお話ですので、当然事実と異なります。事実も都合のいいように解釈し捻じ曲げ、誇張します。苦手な方、取り扱い注意です。

紙媒体化はじめました。(カテゴリ『はじめに』・・・より『本棚』へどうぞ)

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