another ocean #21

2012.11.01 00:00|☆another ocean 【完】
another ocean
DongHae side

「リョギ~」
キッチンに立つリョウクを見つけて声をかけると、背後から『あ、バカ』と兄の小さな声が飛んできた。

「えっ・・・何?」
『・・・おまえ、空気読めよ。』

ソファーにまるで隠れているかのように寝転んでいた兄ヒチョルが上半身を起し、小声で言う。

「空気?」

ほらっと顎で指され、もう一度キッチンを見る。
そこには店舗かと思うほど、台の上に広げられた様々な形のグラスの数々・・・。
その一つ一つを、指紋はおろか布巾の繊維一本すら許さないとでも言うように、グラスを時々日に透かしながら磨き上げているリョウクが居た。

『なんで?なんであんなことしてんの?どうしちゃったの?』

ヒチョルの横に体を滑り込ませ、小声で聞く。

『・・・連絡ないからだろ。』

ヒチョルの答えに、あぁ・・・と返事をする。
ばーちゃんに呼ばれたという次兄ジョンウン。家を出てから・・・2ヶ月が過ぎようとしていた。
日に幾度とあった連絡も、一日に一回になり、ニ三日に一回になり、週に一回になって・・・とうとう途切れていた。
初めは鬱陶しそうに、でも嬉しそうに相手をしていたリョウクだったのだが、段々と連絡が滞るにつれその心が揺れているのか・・・体調も不安定になり、疲れたような顔をすることがあった。
なんどか『食う?』とリョウクに聞いたのだが、いちども首を縦に振らなかった。
その代わりとでも言うように、ドンヘが苦手とする液体の消費量はヒチョルに並んでいる。
1つ拭き終わると、傍らにおいてある赤い液体の入ったグラスを手に取り、ぐっと流し込む。
そして次のグラスを拭き、飲む。また次のグラスを・・・

『今日は・・・ずっとああなの?』
『あぁ。・・・キッチンドリンカーだろ?』
『まずいよね』そう聞くと
『な?』と帰ってくる。

『ヒョン、ジョンウニヒョンは何しに行ったの?』

座りなおして改まって聞く。

「それ、僕も知りたい。」

後ろから声が飛んできて、二人でギョッとして振り返る。

「何、その顔。すっごい間抜けな顔になってるよ。」

こっちを振り向きシンクに凭れてグラスを拭いているリョウクが居た。

『おい、あんなキャラだったか?』
『ヒョンが知らないだけで、あんなだよ。』
「ドンヘヒョン、何?」
「なんでもない!」

ブンブンと顔を振っていると、『目、回んない?』と冷めた声が飛んできた。

手際よく出ているグラスを片付けると、適当にその辺にあるものを見繕ってトレーに乗せヒチョルと座るソファーの前までやって来るとテーブルの上にそれらを置いて、定位置のパーソナルチェアに膝を抱えるようにして座った。

「トゥギも言ったろ?自分を知りたいんだよ。あいつ・・・ああ見えて真面目だから。」
「・・・でも、連絡途切れるなんておかしいよ。ジョンウニヒョン変なとこでマメなのに。」
「それも出来ないほど忙しいんだろ?」
「何に?」
「何って・・・そりゃ・・・。」
「女って事?」


「はぁ?!」


リョウクの問いに素っ頓狂な声が出たが、ヒチョルはそれを否定しない。

「え?ちょっと・・・ヒョン・・・マジ?」
「ヒチョルヒョン、ちゃんと話してよ。何も知らないままの子ども扱いしないで。」

リョウクの言葉にふーっと長いため息をついて、ヒチョルがボトルに手を伸ばそうとする。それを先回りしてリョウクがそれを手に取りグラス二つに注いだ。

「5年前だったかな・・・初めに手紙を書いたのはジョンウンだ。人魚だしな・・・当然まだ生きてるだろうと。だったら教えてくれるんじゃないだろうかって。トゥギが傍にいるからあいつ等の力は良くわかる。問題は人魚だよな。」

グラスをゆっくりと回し考えを整理しながら話すヒチョル。こんな風に、俺たちに何かを話して聞かせてくれるのは始めてだ。

「2つの種族の血が混ざったとはいえ、あいつらと同じ事が出来ても、同じじゃないって・・・分るだろ?俺は『食いたい』けど牙はない。ドンへはそう思うことが少ないけどある。リョウクにあって、イェソンにはない。傷を治すにしろ・・・同じようにはならないだろ?リョウクなら数滴の血で足るが、ドンヘお前はどうだ?リョウクよりももっと量が必要なはずだ。俺の場合、血よりも・・・同じ体液でも唾液の方が直りが早い。涙液は・・・試したことが無いから知らね。」

そう言いながらテーブルの上に足を投げ出し、腰の位置をずらし座面をズルズルとずり落ちる。
リョウクを見ると両手でグラスを包むように持ったまま呆然としている。

「アイツ等の力にパワーの差はあれ、性質的には均一なはず。じゃぁ、俺らはなんだ?そもそも個体差がある種なのか?それが混じったからのか?・・・俺は考えてる途中でどうでも良くなるんだが、イェソンは違うらしい。」

初めて聞く話に、ドンヘは動揺を隠すのが精一杯だった。
兄達は・・・二十年近くもそんな事を考えて・・・自らを動物実験のようにしてきたというのだろうか。
次兄イェソンは何を思って家に閉じこもっていたのだろう。
自分はそんな事も知らず・・・兄達の腕の中に守られながら、自虐的とも取れる行為をエスカレートさせていたのか。その犠牲の重さと自らの鈍感さににドンヘは吐き気がした。
イェソンが出かけて初めて分ったこの家の空気の質感。
ハリケーンのような長兄ヒチョルが気を休められる場所・・・清流でしか生きられないようなリョウクの為に作り出した空間。
そして・・・俺の戻ってくる場所。

「人魚にとって混血はタブーじゃないらしい。人間との間に子どもを作ることがあるって。それに・・・あちらにとったら、願ったり適ったりだ。新しい血の混ざった・・・違う力を持った見目のいい一族の男。あ、人魚の男はブスらしいぞ。」
「・・・そんな・・・うそでしょ。」
「GIVE&TAKEだろ。ジョンウンは知りたいことを手に入れる。それこそ色んな固体に出会うだろう。あっちは、自分達を危険に晒さないパートナーを手に入れる。同族なら『不老不死』を手に入れるために寝首を掻ききられる心配がないからな。・・・あいつ、『守る』ってさ。お前らのためなら何だって差し出すさ。だから、な?あいつのやりたいようにさせてやれよ。動機はどうであれ、手段はどうであれ・・・止まるような奴じゃない。」

そう言ってグラスの中身を煽ったヒョンが、一番憤りを押し殺したやりきれない表情をしていて、俺らは口を噤むしかなかった。
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FF、SJ中心で・・・BL取り扱いです。

CPはイェウクを中心に・・・83はもちろん、2woon ウンシヘ マンネラインまでほぼ全てに萌える○態です。
まぁ"みんな違って みんないい”ってことで。

*作者の脳内でのお話ですので、当然事実と異なります。事実も都合のいいように解釈し捻じ曲げ、誇張します。苦手な方、取り扱い注意です。

紙媒体化はじめました。(カテゴリ『はじめに』・・・より『本棚』へどうぞ)

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