another ocean #29

2012.11.18 00:00|☆another ocean 【完】
another ocean
RyeoWook side

体を引き裂くような痛みと、自分の口から漏れているとは思えない呻き声で正気に戻る。
本当に・・・最後の最後まで、この体は情けない。
リョウクはいいかげん自分自身に辟易していた。
いっそのことこの首を掻ききってしまいたかったが、もうどこにもそんな力は残っていない。

目を開けるとベッドの脇の椅子にはヒチョルが、その前に膝まづいてリョウクの右手を握り祈るような姿勢のドンヘがいた。

「・・・ン・・・ヒョン・・・ウン兄・・・さんは?」
「まだだ。」

体が焼けるように熱かった。
今までに何度も熱を出し、浮遊するかのような感覚を味わったこともあったが、それとは違う。
なんとか体を動かそうと試みたが、体の中心が痺れているかのように上手く力が入らない。
指の間から砂が零れ落ちるかのように・・・こうやって少しずつ失っていくのだろうか、なにもかも。

「・・・ヒョン・・・。」

搾り出した呟きにヒチョルが額にキスをくれ・・・痛みが和らぐ。
霞む視界の先にどんな時も崩れない綺麗な顔があった。
美しい瞳が自分を真っ直ぐに見つめてくれていた。
胸に何ともいえない安堵感が広がる。

・・・大丈夫・・・僕はまだ・・・頑張れる。

自由に振舞いながらも決して僕らへの配慮を欠かさないヒチョルに、どれだけ護られてきただろう。
ポタポタと握られている手に降り注ぐ涙に、泣き崩れているドンヘを想像してリョウクは自然と頬が緩むのを感じた。
純粋な幼子のようなこの兄の・・・真っ直ぐな暖かく力強い温もりを右手に感じ安堵する。
痛みに寄り添うことが出来るドンヘが居たから退屈でなかった日々。

「・・・ドン・・・へ兄・・・僕を・・・溺れ・・・死にさせ・・・る気?」

そう切れ切れに言葉をつなぐと『バカ』という声に嗚咽が混じる。
一層零れ落ちたドンヘの涙が、リョウクの体に命を吹き込もうとするが・・・大きな穴の開いたバケツでは一時しのぎに過ぎない。

ヒョン、僕・・・幸せだよ?三人も兄さんがいて・・・兄さん達の弟で・・・本当に良かった。

昔から不具合だらけのこの体を手放すことに、抵抗はこれっぽっちもない。
闇の中に・・・帰るのも・・・怖くは無い。

ただ・・・会いたかった。

いつも当たり前のように傍にいた兄に。
イェソン・・・いや、ジョンウンに。
あの優しい夜の様な瞳にもう一度見つめられたかった・・・あの微笑みに包まれたかった。
もう一度・・・リョウクとあの声で、名前を呼んで欲しかった。


「リョウク?」

どの位時間はたったのだろう。
遠慮がちなドンヘの声に答えたかったが、もう音にならなかった。
目を開けたと思ったのに・・・何も見えない。もう余り時間は残っていないらしい。

ヒョン・・・早く・・・早く帰ってきて。
会いたいんだよ、もう一度。
僕ね、話したいことがあったんだ。

ヒョン、ありがとう。

空を飛んでいる鳥を見ることが出来た。
煌く木々の葉や、日の光の温かさを知ることが出来たよ。

ありがとう。

ヒョンが居なかったら、夜の優しさを教えてくれなかったら
・・・もっと早くにどうにかなっていたかもしれない。
輝く星も・・・揺らめく月の光も・・・ヒョンが居なければ大嫌いなものだったよ。
僕に・・・あなたの時間の全てをくれて・・・傍にいてくれてありがとう。

ヒョン・・・もう・・・僕から開放するね?



何処かで波の音が聞こえた。
母さんが愛した・・・戻りたかった海。
兄さんが歌ってくれた・・・母さんの面影・・・思い出の海。

僕はそこに帰るのかな。



『リョウク』


暗闇の中で、そう耳元で囁く声とふわっと体を包んだ温もり。
待っていた人の香りを感じ、深い深い井戸の底に沈んでいたようなリョウクの冷たい心は光が差したように、長い冬を越えて待ちわびた春が来たように・・・体の痛みは消え去り、心が震えた。
自分の頬を涙が伝うのを感じ、こんなにもイェソン・・・いや、ジョンウンを欲していたのだと、リョウクは改めて認識した。

何も映すことはない目をそっと閉じ、瞼の内側にジョンウンの姿を思い浮かべる。
何かを話そうとして上手く言葉に出来ずに口を噤む姿や、どうでもいい話題で酷く真面目に訥々と語る姿を。
何もかも見透かすかのような鋭い目つきと、目を三日月のように細めて破顔するのを。
黒子の位置や笑い皺の一本まで自分が忘れるはずがない愛しい人の姿。



ヒョン・・・戻ってきてくれたんだね。
間に合って・・・良かった。
あのね・・・おかえり・・・えっと、それから・・・・。

今抱きしめてくれているでしょ?もうすこし・・・このままギュッってしてて?
・・・僕が消えるまで・・・こうしてて?

あの静かな夜のような目で、僕を見つめてくれているんでしょ?

ね・・・僕のこと愛してくれていたでしょ?
僕たち兄弟だけれど・・・男同士だけれど・・・。
僕も愛していたよ。
僕だけの兄さんだと・・・叫びたいほどに。

ヒョン、僕幸せだったよ。

真っ暗にしてなきゃいけない昼間も、外に出ることは無い夜も・・・僕の事を不憫がってくれていたけれど・・・それでよかったんだ。
だって、あなたが居てくれたから。
・・・僕はあなたの時間全てを独り占め出来たのだから。

ねぇ、もう一度・・・名前を呼んで?

あなたにしか出せない音色で。
僕の名前を・・・僕だけが知っている声で。
世界中でこんなにステキな名前はないって・・・特別だって思わせてくれる声で『リョウク』と呼んで欲しい。


もう一度・・・生まれてきたら、僕ら・・・出会えるかな?

僕を・・・探して、見つけてくれる?

今度は・・・愛してるって・・・ちゃんと言ってくれる?

僕はここだよって呼ぶから・・・今度は叫ぶから・・・ちゃんと答えてね。

愛してるって・・・。

ジョンウン・・・愛してる。



愛してる。




ねぇ・・・最後に・・・キスして?
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FF、SJ中心で・・・BL取り扱いです。

CPはイェウクを中心に・・・83はもちろん、2woon ウンシヘ マンネラインまでほぼ全てに萌える○態です。
まぁ"みんな違って みんないい”ってことで。

*作者の脳内でのお話ですので、当然事実と異なります。事実も都合のいいように解釈し捻じ曲げ、誇張します。苦手な方、取り扱い注意です。

紙媒体化はじめました。(カテゴリ『はじめに』・・・より『本棚』へどうぞ)

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